大阪都構想:知っていてほしい7つの事実(メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』より)

メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』より
大阪都構想:知っていてほしい7つの事実
From 藤井聡京都大学大学院教授&内閣官房参与
今年平成27年の1月,「大阪都構想」を実現するかどうかを決める,「住民投票」を行うことが決まりました.住民投票の対象者は,現在の「大阪市民」です.
そこで,過半数が大阪都構想に対して「Yes」の意思表示をすれば,投票から約2年後の平成二十九年の四月から,いわゆる「大阪都構想」が実現することになります.
──しかし,大阪市民は一体,「何に」投票すべきなのでしょうか?
実は,そもそもこの点からして,大阪市民を含めた多くの方々が,ご存じないように思います.
ついては,ここでは,「大阪都構想」についての賛否はさておき,その判断に向けて大切な,いくつかの「事実」の情報を提供したいとお思います.
【事実1】今回の住民投票で決まっても,「大阪都」にはなりません.
実は,今度のいわゆる「大阪都構想住民投票」で問われているのは,法律的に定められた,ある協定書に対する賛否なのですが,この協定書の中には,「大阪都」という言葉は一回も出てきません.
そこに出てくるのは,「大阪府」という言葉だけです.
これはなぜかというと,今の法律の中には,東京都以外の道府県を「都」に名称変更するということは定められていないからなのです.
したがって,住民投票でこの協定書が認められたとしても大阪都は実現しません.大阪府大阪府のままなのです.
【事実2】今の「都構想」は,要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」ことです.
さて,その協定書には,様々なことが書かれていますが,その中の最大のポイントが,この点です.
かつては,堺市や周辺の自治体も「特別区」にすることが構想されていたのですが,一昨年の堺市長選で,この都構想が堺市民から事実上「否決」されましたので,その構想それ自体が,「大阪市を解体する」ということだけになったのです.
つまり,今度の住民投票で問われているのは,この「大阪市を5つの特別区に分割すること」についての賛否,というわけです.
【事実3】年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」します.
さて,大阪市は今,数ある自治体の中でもトップランクに権限を持っている「政令指定都市」です.
ところで,政令指定都市,というのは,要するに,固定資産税やら都市計画税やらで得られたお金を使える,という他の市町村では考えられない程の「強力な権限」を持っています.
これこそ,大阪が関西,西日本の中心都市として発展してきた,決定的理由です.
大阪,関西の都心である大阪に手厚い権限を与え,キタやミナミ等に集中投資を行い,これをエンジンとして発展してきたのが,大阪という街であり,関西の活力の源泉だったのです.
ところが,都構想が実現してできあがる特別区には,この強力な権限がありません.
したがって,大阪市内で集められた大量の税金が,大阪市「外」に流出することになるのです.
その総額は,実に2200億円!
(※ 正確には2240億円.これは法定協議会の資料から,この数字が明確に試算できます).
(※ もちろん,これは今,大阪市が担当している事業の一部が大阪府に引き継がれることになるので,その事業のための資金だと解釈することも可能です.で すがその移管業務について,現大阪市が支払うべき金額は上記資料に基づくと約600億円にしか過ぎません.したがって,それを仮に差し引いたとしても,や はり大阪市から少なくとも,「実質的」に約1600億円が流出すると言わざるを得ません).
とにかく2200億円の予算が大阪市外に流出するわけですが,これは大阪市民一人あたりにすると,年間約8万円.つまり,都構想が実現すると,現在の大阪 市民は,一人あたり年間8万円ものおカネが使えなくなってしまうのです(※ 仮に先に述べました「実質値」で考えても年間6万円,という数字になりま す).
そしてそれを通して,大阪はキタやミナミをはじめとした都心の核への投資が細り,徐々に大阪の「核」が衰弱して行くことが深刻に危惧されるのです──.
【事実4】流出した2200億円の多くが,大阪市「外」に使われます.
とはいえ,大阪市から流出する2200億円を管理する「大阪府」が,そのおカネをフルに活用して大阪市特別区)にとって良いことをしてくれるのなら,現大阪市民は,都構想によって不利益を被ることも,大阪の中心核が衰弱していくことも無い,ということになります.
しかし残念ながら,都道府県の財政運営の「法的常識」から考えて,そういうことは絶対に起こらないのです──.
そもそも,「府」が,府内の核自治体から税金を一旦吸い上げ,その後に配分するのは,「所得の再分配」といって,自治体間の貧富の格差を埋めるために行われるものです.
だから,その2200億円は,仮にその一部(例えば,約600億円)が現大阪市のために活用されるとしても,その多くが(千早赤阪村四條畷市等を含めた 府内の)他の自治体に回されることになるのは必定なのです(少なくとも,おカネに色は無い,という風に考えれば、そのように解釈せざるを得なない事態とな る事は,論理的に考えて避け得ないのです).
【事実5】特別区の人口比は東京は「7割」,でも大阪では「たった3割」
とは言えもちろん,もしも大阪市の人口が大阪府全体の多くの部分を占めているのだとすれば,大阪府大阪市特別区)のために,手厚い行政を展開することも考えられます.
しかし残念ながら──やはりそうはならないのです.
そもそも大阪の場合は,23区民が全人口の7割を占める東京都とは真逆に,特別区民となる現大阪市民の割合は,全体のたった3割にしか過ぎません.
だから,大阪知事は,東京都知事のように,特別区の住民の意向に特に手厚く配慮しながら行政を進めていくことは,そもそも不可能なのです.
そして大阪府議会においても,大阪市(特別五区)選出議員の数は全体の約3割で,残りの7割が大阪市以外の市町村からの選出なのです.したがって府議会の議論は,東京都の様に,特別区の住民の意向を特に重点的に配慮したものとは,ならないのです.
つまり,「数の論理」から考えれば,東京都の様な,都心を特に重視した「大都市行政」は大阪においては期待できない,ということになるのです.
先ほど,大阪市から流出した2000億円のおカネは,大阪の中心核である大阪市のために使われる傾向は低いだろう,ということを申し上げましたが,こうした「数の論理」から考えても,そうなることは明白だと考えられるわけです.
【事実6】東京23区の人々は,「東京市」が無いせいで「損」をしています.
ところで,都構想について,次のような漠然としたイメージをお持ちかの方もおられるかも知れません.
(1)大阪市は今,疲弊している.
(2)東京23区は羽振りが良い.
(3)だから,大阪でも東京と同じような「特別区」にすれば,羽振りがよくなる.
しかしこれは,大きな勘違いです.それは例えば「今,一番モテている奴は,いつも髪の毛がくしゃくしゃだ.だから自分も髪の毛をくしゃくしゃにすれば,それでモテるようになる!」なんて考える様な愚かな話です.
そもそも,東京23区がもしも「東京市」だとしたら,東京都心はもっとさらに強烈な集中投資が進んでいるだろうことが明らかなのです.
もしも東京23区に「東京市」という,今の大阪市のような一つの「政令市」があったとしましょう.政令市というシステムは,その内側の都市行政を保護する 「保護システム」です.したがって,政令市という保護システムさえあれば,その東京市には,今,「東京都」に召し上げられている,莫大な税金がそのまま残 され,その結果,より豊富なおカネを自由に使うことが可能となります.
つまり,東京23区の住民は,政令市という保護システムがないせいで随分と「損」をしているのです .
大阪都構想の賛否を考える際,この東京23区の真実も,重要な意味を持つでしょう.
【事実7】東京の繁栄は「都」という仕組みのせいでなく,「一極集中」の賜(たまもの)です.
ではなぜ,現在の「大阪市」は疲弊しているのに,現在の東京23区が豊かなのかと言えば───それは行政の仕組みの問題ではなく,そもそもの経済規模が全く違うのからなのです.
人口についても経済規模(GDP)についても,大阪市と東京23区との間には,実に四倍前後のもの巨大な格差があるのです.
これは,首都東京に,あらゆるモノが一極集中していることを示しています. これが,東京23区の豊かさの秘密です.
その豊かさは,「都と特別区」という制度によってもたらされたものなのではなく,「首都」という特殊な事情がもたらしたものだったのです.さらに言うなら その豊かさは,「東京市」という政令市の保護システムがないせいで,自主財源が流出し,23区民が「損」をしたとしても余りあるほどの豊かさだった,とい う訳です.
ところが──大阪市はそもそも,23区とは比べものにならない位の「少ない」人口と,「少ない」GDPしかありません.その結果,23区とは比べものにならないくらいの「少ない」自主財源しかもっていないのです.
にも関わらず,大阪市という,政令市の「保護システム」を解体すれば,大量の自主財源が流出し,大阪市民は,さらなる疲弊に苛まれるようになることは,決定的なのです.
・・・・
以上,いかがでしょうか?
大阪都構想に賛成するにせよ反対するにせよ,以上に紹介した7つの事実については,少なくとも十分に吟味した上で,ご判断いただきたいと思います.
実は都構想を巡っては,さらに重要な「事実」が様々にあるのですが,それについては,また別の機会にお話したいと思います.
本稿が,大阪の明るい未来に少しでもお役に立ちますことと,祈念いたしたいと思います.

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